はじめに


 私たちがある目的をもって施設を造る場合、管理をすることが前提であり、造るは一時のことであるが、利用して管理するのは、半永久的なことである。

 たとえば、自分が住む家を作ろうとするとき、最も気がかりなのは、間取り、換気、使い勝手、細工の出来具合など、毎日のことである。また、我が国が地震国であることを考えると、材料、構造上のことも気がかりになるが、なんと言っても先立つものとして、費用の問題がある。そして、費用は規模に関係し、規模が人数に関係してくる。また、常時使用する人員と、盆暮れなどにおける来客人数も考慮しなければならないので、千差万別の対応が考えられる。

 下水道も同じことで、計画は言うまでもなく、設計時点でも管理における諸条件を考慮して、決める訳であるが、計画時点での決定の重要度の大きさは、設計時点でのそれと比べると大きさで何倍もの差と同時に、質においての差異を感じることが多々ある。計画、設計が、良質設計と不良設計の場合はまだしも、不良設計と不良設計の場合は手のほどこしようがない。

 このことは、道路事業のように、出来あがった後はさほど手間と費用を要しないものに比べ、下水道事業は、使用料、および運転費と起債の償還のように、毎日の経営問題の上に、水質汚濁防止法における特定施設、すなわち、公害源になる可能性をもっている処理施設があることである。このことは、各下水道管理者は経営の他に、刑事罰を受ける可能性を併せ持っているということが、特異な事業と言える。



下水道における初期の条件選定の重要性


 今まで述べたような特性をもつ下水道事業の実体を見てみると、中にはベスト3K(きれい、簡単、気持ちいい)で、黒字で起債償還が出来ている場合と、ワースト3K(臭い、きつい、汚い)で、かつ赤字で公共団体のお荷物になっている場合と様々であるが、このような結果を招いている原因を探ってみると、結局すべて計画・設計に行き着き、ワースト3Kの場合、管理面での努力で改善することは極めて難しいことが多い。

 計画のあり方は質を決め、設計のあり方は量を決めると言われるほど、計画時点における諸々の条件選定は重要なのであるが、設計ほど具体性に欠しいだけに理解され難い面を持っている。そのために多くの場合、維持管理に諸現象が現れて、始めて気付くことになるが、その修正は非常に困難である。このように計画時点での諸条件が維持管理にどう反映するか。また、設計時点での諸選択が維持管理にどう反映するかが十分理解されずに、極めて重要なことが、案外簡単に決められていることが多いようである。また、世の中の様子がすっかり変わっておりながら、前例主義にこだわっているのは、何とも下水道界のみではないが気になるところである。



河川の計画手法


 河川計画時に用いられる、河道設計の背水計算というものがある。

 河川は上流から下流へ水が流れるのに反して、計画のための計算は、下流から上流に向かって、逐次、各横断面上の水位を求めて行くのである。下流の基準水位から計画の流量を流した場合、河道巾員や河床の動的条件により、上流の各横断面の水位が幾らになるか、危険側か許容範囲内かの試算を繰り返して、適切な巾員、河床の条件を決めて行くのである。

 下水道も同様に、管理における諸条件は、対応技術の採用のあり方により様々な解が出てくるのであるから、下水道管理者の希望条件に合わせるためには、どうでなければならないのかの選定条件を豊富にして、近似的にほぼ合格点が得られるようにすれば、こなんはずではなかったと言った、下水道ドラ息子論がでないようになるであろう。



維持管理の希望条件


 維持管理に現れる行政的、財政的、技術的見地からの望ましい条件を一覧表にして見ると、行政的観点からは、何と言っても日本人には悪臭のないことである。無臭化処理場での職員の明るい顔は忘れられない思いである。

 一般的には、処理場入口のスクリーン、沈砂池等の設備から発生する臭気に、技術の未完成さを感じている人は私一人ではなさそうである。

 水処理の結果としての副産物を扱う汚泥施設からの臭気は、非人間的で不健康であることは言うまでもない。

 これらの諸問題の原因を根本的に無くすための、汚泥改質機「さわやかさん」が注目され始めている。

 また、この副産物の質に関して、人の健康項目にかかる物質があることによって、物質循環を絶たざるを得ないことが生じることがあるのは、排水受け入れの可否の判断として計画上における難しく重要な問題を持っている。

 質としての流入物質と同様に量としての不明水の問題がある。合流式の場合はさほど問題にならなかったが、分流力の汚水系統に、雨水時等に不明水の浸入が生じることは、水質汚濁防止法に言う特定施設との関係で頭痛の種である。なお、災害時といえども、先般発生した阪神・淡路の大震災では、思った以上に避難所生活が長いことを考えると、生命と環境に直接関係する上下水道は、避難所毎に、井戸と処理場の設置が、計画論として浮上するかも知れない。

 財政面から見てみると、何と言っても管理のための職員の費用であり、委託費である。このことは、管理の手数が掛からなくて省エネシステムを採用することが重要である。

 そして、副産物として生じる汚泥が、無臭で健全汚水のみによるものであれば、緑農地還元も安全であるので、取引希望者も多く、利用面で困ることはない。また、建設費が安ければ起債償還費も安く、交付税と関係して健全財政が守られることになる。

 これらのことを比較的容易にするための汚泥改質機は、触媒としての腐植を含んだ土壌で造ったペレットの、低減耗量タイプの培養装置を選定すると、ペレット補充費が1m3当たり1円程度で済むので、一般的費用としての脱臭剤費、汚泥脱水助剤費、電力費、および脱水汚泥処分費等が大幅に軽減され、その効果は大きい。

 最後に忘れてはならないのは、車輌が走行する公道に埋設される、管渠の点検、補修、清掃である。このため、極力、浅く、小径管で単位流量当たり延長が短いことである。また、幹線道路に極力配管をしないことである。このことは、管渠が常に車輌荷重を受けて生じる傷の補修作業等と道路管理者と警察の許可に関係して、不自由極まりないことなど、体験者でなければ理解しがたいものがある。



維持管理に現れる計画と設計の諸条件


(1)計画のあり方と維持管理予測

 計画時における集水汚水源を家庭汚水のみにするか、重金属混入の可能性のある病院や歯科医の排水を入れるか、どんな入れ方をさせるか、また、産業排水を入れるかなど、諸々の決定をしなければならない。

 このことは、合流式の場合は極めて困難であるが、分流式の場合は容易に出来ることや、産業排水等の汚水処理技術も向上してきていることの他に、主たる汚水による副産物の処理利用を考慮すると、重要な判断事項である。地形と区域の大きさの問題もいちがいに言えずケースバイケースである。

 これらのことは、すべて完全な物質循環がなされて、廃棄物が生じないことが前提である。



(2)設計のあり方と維持管理予測

 設計時においては計画時よりはるかに具体的になる。下水の性質や不明水などの流量に関係して未知な現象が生じてくることが多い。

 末端の排水設備、管渠、ポンプ場、処理場と各々異なる役目をしながら、全体のバランスで選定条件別に状況は異なる。



規準設計とソフト設計(手作り設計)



 設計会社に設計を委託する場合、受注側の資質によって、作品があまり変わらないものと、大いに変わるものとがある。

 たとえば、規準設計とでも名付けられる内容のものとしては、10人が設計をしてもほぼ同一案におさまるようなものと、ソフト設計(手作り設計)とでも名付けられるもので、一般的なものに比べて管理経験、すなわち、勤務年数でなく、技術の修得度の豊富な人による設計は、施設面積、施設構造、機構の単純度、建設費、および維持管理費等において、大いに異なるものである。

 実施例によると、一般的なものと、工夫されたものでは、敷地面積を始め、建設費、補修費等において相当な差がある。このことは、社会一般的に言われるように「安かろう、悪かろう」でなく、「安かろう、良かろう」のことが多いのは興味深いことである。また、小さくても付加価値が高くて、補修費等が安く、手間が掛からないものなどは、建設費が高くても認めるような高付加価値選定が可能な社会は出来ないものであろうか。

 我が国も、高齢化社会を迎え、その上、産業の空洞化への道を歩み始めており、そろそろ管理者の本音を十分に吸収した、厚みのある設計が生まれてくるような戦略、戦術の出現が待たれるところである。



技術水準の推移



 我が国における生活排水処理の歴史は、僅か70年程度である。公共施設としては当時の三河島処理場が古く、個別施設としては、私の知る限りでは、昭和3年に出来た、土木研究所赤羽水理試験所の水洗式下水道の嫌気濾床式浄化槽があった。

 戦後50年、個別浄化槽を始め、小規模施設は割高で処理水質も思わしくなく、水質汚濁の主因とさえ言われ、大規模下水道の整備が水質保全の鍵であると考え、その普及促進に日夜努力をしてきたものである。

 しかしながら、技術の進歩は、遂に小規模施設の中にも大規模施設と変わらないか、若しくは、それを上回るとさえ言われるものが出現するようになって来ている。



ワースト3Kからベスト3Kへ



 文化レベルが高いか低いか、何事でも同様であるが、社会生活の成立の基本は原因者と犠牲者が同一になったり、個人の義務と責任が確立されてこそ社会なのであろう。

 今日もどこかで下水道事業を進めるべく、計画をし設計に取りかかっている都市があるが、管理する側がどれ程、来るべき施設による事業展開が、どうなるかを理解して実施している所はまれであろう。そうすれば、誰かが代理者として管理者の意を汲んで計画、設計することになる。この場合、道路事業のような、築造後に膨大な管理費と補修費を要しない事業ならまだしも、下水道事業は行政面、財政面、それに日進月歩の技術の進歩を内蔵しながらの事業であるだけに、自分の経験の範囲の内ならもう古いと考え、範囲の外で洞察力を発揮して成功することでなければ、代理者になることは、かえって罪悪なのかもしれない。すなわち、管理責任をとらないものが代理者になることは、現実論としては、やむを得ないかも知れないが、本質的には問題を内蔵しているかも知れない。

 何事も昨今のパソコンの進歩発展とは同じではないが、「きれい 簡単 気持ちいい」のベスト3Kの無臭化処理場が、ワースト3Kに代わって下水道界にも押し寄せて来たようである。



ある都市における特記仕様書


 T市の新都市建設における汚水処理施設設計時の特記仕様書を示す。

 これは、管理者が一般的建設仕様の範囲内において、下流域の上水取水都市への配慮と、自らの経験、なおかつ、計画を律する法の精神を併せ持っていることを示している。



ある都市の処理施設の評価試案


 下水道事業のうちで、ポンプ場や処理場の位置が最大の問題点となることが多い。たとえば、下水道施設のうち最も大きな難点は、既設処理施設の臭気の問題である。すなわち、施設見学先の処理施設で汚水が処理されても、二次公害といわれる臭気の発生である。この既設における臭気対策が、発生源を絶たずに出てから脱臭の技術で足りるとしていたことにより、見学者の地権者はもとより、当該施設に近い人たちにしてみれば、深刻な問題であることは言うまでもない。

 このことが、今後の下水道事業に色々な意味で、大きな影を落とすことになっていることを感じている人は少なくない。



あとがき



 我が国は、すでにある意味での一流国といわれるようになっている。しかしながら、近く高齢化社会を迎えようとしており、昨今の産業の空洞化とも併せて、維持管理に要する費用は収入をもって足りる状況にして、一般会計からの負担など困難となるであろうことが予想されている。まして上下水道が、生活に起因する人名と環境を保証する絶対的必要施設であるとすれば、本来、その範囲の使用料は無料でなければならないのかも知れない。現実は現行制度の使用料収入で健全経営する方法はない。

 もう一度、振り返ってみよう。

 下水道は最上流の排水設備から、管渠を経て処理場に至るが、そのいずれも良くないと、結果は必ず処理場に現れるように、有機的なつながりをもっており、全体のバランスが重要で、処理場のみで全てが解決出来るものでないことは案外知られていない。

 そして、顕著に現れる処理場での維持管理の状況から、管路のあり方、排水設備のあり方へと遡って調査と対策をしていかなければならない。

 その上、平時と非常時のことも考え併せると、各段階でどのような状況を希望するか、そのためには設計が、そしてその前の計画がどうでなければならないか十分検討し、計画に対する希望内容、続く設計内容に対する希望仕様を決めて委託する習慣をつけるべきである。また、他の河川、道路事業と同様な計画、設計の制度でない独自の制度が必要なのかも知れない。このことは下水道事業が他事業と異なり、供用開始後の維持管理の行財政、技術に極めて厳しい現実があるからである。

 そして、各公共団体にとって、最大で、最高価格の施設が下水道である限り、当然のことである。

 また、厳しい条件を受けて立てないところへは委託をしないことである。甘えは怠惰を生み、社会悪をなすことを明記すべきである。

(H7.10.5 下水文化研究会 提出資料一部修正)


ホームへ

200901

AQUA Green Soil Co., Ltd.

次 へ

|

|

|

|

|

|

下水道技術の紹介

地方自治体の方へ

創エネルギー

宝の水創出

下水道事業の諸問題

水環境の下水道

本社アクセス